性同一障害

ピンポンとチャイムがなって
はーいと出てみると
目の前に中年のおじさんが立っていた。
うかないサラリーマンのようで、
よれよれの背広に少し太り気味で汗をかき、
頭はうっすら禿げかけている。

なにかの売り込みだろう
「あの〜」と言いかけたとたんに
「いりません」とドアを閉めかけた。
「いや、違うんです」
「あの〜」その親父は背も小さくよりいっそう情け無さそうにしていた。
「あの〜」その態度にだんだん腹が立ってきて
「なんですか?」と強い口調で言うと
「あの〜、私、昔、あなたに」
「はい?」
「あなたに、、、、」
「はあ〜」
どこかで会った事があったのだろうか?
思い出しても何も出てこない。
「私、あなたに、、、」
「あなたになんですか?」
「好きだと言われた事があるんです!」
「え!」
私は考えた。
え!なにこの親父、ただの気違いか?
しかし、なんだ?
なぜ、じっと見ているんだ?
あれ、この目、どこかで見た事が、、、
「あの〜わかりません?、、、、、よね」
「はあ〜」
私は声も出ずに、ただ驚くばかりでから返事をした。

「その〜あなたが中学2年の時なんですが、、、」
私が中学2年?私が中学2年?思い出せ!
いや、いっこうに記憶が無い
その時は私は、、、たしか、、、
そう、近所の喫茶店の美人のウェイトレスさんが好きだったのだ。
夏休み、よく意味も無く遊びに行って
ただでジュースをもらった記憶がある。
そう、そう、それで夏休み最後の日に
我慢出来なくて、夕日が見える公園に呼び出して
「好きです」って告白したんだよ。
懐かしいな
あの時、彼女は「うふふ。うふふ」と笑って
結局返事はもらえなかったんだよな。
名前は今でも忘れない。
河嶋ともこさん。
そう、そう、懐かしいな
背丈は、そう、この親父くらい????????
「え!」
「思い出してもらえました?」
「え!いや、あなた」
「はい、河嶋ともこです」
「え、だって親父じゃん」
「はい、一昨年、性転換をしまして」
「夢が叶ったせいで、その後、心にぽっかりと穴が空いたように
どうも、ていたらくな性格になって、このような姿に、、、はい」
「え〜、でも、でもどうして」
「あの時の返事をまだ、していないなと思いまして、、、、」
「え〜、いまさら〜」
「はい、実は私、性同一障害という病気でして、
それで、私は体は女ですが、
心は男だったんですよ。
しかも、体に反してゲイでして、
男が好きだったです。」
「え〜、じゃあ、女でいいじゃん」
「いや、私、心は男なんです」
「じゃあ、女が好きになればいいじゃん」
「いや、私、それで、ゲイなんですね。」
「なにやら、性同一同一障害って感じなんです」
「そんなこと、いわれても、、、、」
「いや、あの、どうしても あのお返事を
自分の気持ちに素直になりたいと、
あなたのために、
私、手術したんですよ」
「え!僕の為に、、、、ですか?」
「はい」
「いや、僕の為なら、、、手術は、控えて、いただいたほうが、、」
「いや、私、自分に素直になるためにですね」
「わかりました。で、今日は僕にいったいどんな用が、、、」
「はい、ですから、あの時の返事をですね。」
「はい、、、」
「あの、ですね。じゃ、今からねいいますから、、、、
落ち着いて、落ち着いてね、」
私は喉をゴクリとならして、、、、
「あのですね。私は、」
「 は い 」
「あなたのことを」
「・・・・・」ゴクリと見つめ合う2人
「好きです!」
「あ〜〜〜〜、やっぱり!」と私は大声を出して頭を抑えた。

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