ラブレターと西洋人

いつの間にかぼくは
大きな手の上を歩いていたようだった。
ぼくは日本人だから、きっと孫悟空よろしく
お釈迦様の手なんだろうな と漠然と思っていると
霧も晴れて来た。
そこで、遠くの方に見える
とてつもない大きな顔がキリストの顔だったので
本当にびっくりして
まるで、チョウチンアンコウのような
なさけない口の開け方で
「どうして、ぼくはここにいるのですか?」
ときくと
「どうして、あなたはわたしの手の上にのっているのですか?」
と聞き返されてしまった。

「ぼくはこれからどうすればいいでしょう?」
と、また質問をしてしまった。
これも質問返しされるかと思っていたら
「手紙を書きなさい」という。
「誰にですか?」
「好きな人にラブレターを出しなさい」と言ったので
「キリストさんがラブレターってのもどうなんでしょう?」と言い返すと
「私はキリストではないです。ただの西洋人です」と答えた。
「えー!じゃあ、どうしてそんなにおおきいのですか?」
「私の国で、私は小さい方です」
「ぼくは、ぼくの国では大きい方です。だけど、あなたの指よりも小さい」
「そうですか」とさも当たり前のようにいった。

「しかし、ぼくは紙もペンも持っていません」
「右のポッケにペンがお尻のポッケに紙があります」
「はい?」といって探ってみると西洋人が言った通りに紙とペンが出てきた。
「本当の気持ちを書けばいい」と、
おせっかいなアドバイスをいただいたので、
「自分自身でも本当の心なんてわからないんです」
「思った事を全て書けば、その中に本当の事が入っています。
読む人にはわかるでしょう」といった。

好きな人にありったけのおもいつくままの言葉を投げかけたラブレターをかいた。
書き終わったと同時に黒猫が出てきて、
そのラブレターを奪って、走って逃げていった。
正確には手から出たら地面はないので、飛んでいったと言うべきかもしれないが、
見た目では走って逃げていったが正解だろう。
ぼくもこの手から抜け出せるかと思ったがどうにも落ちそうなのでやめた。

黒猫は反対の手に入る黒いヤギに手紙をわたした?
「ちょっと、そのヤギはなんだい?」という間もなく
黒ヤギが手紙を食べてしまった。
「あ、ダメ!おい!あー食べちゃったよ」というと
黒ヤギは食べ終わるとぼたぼたと糞尿をまき散らした。
黒猫はそこからひとつのうんこを持ち
こちらに帰ってきた。

「いらないよそんなもん!」というと
『そのヤギはお前の母だ」と西洋人がいった。
「しかし?」まったく理解に苦しむが
そう言われると納得しなくてはならない。
なぜだろう?

猫が持ってきた糞は
一冊の本だった。
子供の頃よく母に呼んでもらった本だ。
「なつかしいな」と思ってページを開くと
先ほど書いたぼくのラブレターの文章がかかれていた。
ぼくは顔を真っ赤にして、本を閉じた。

「よめ!」と西洋人が赤いステッキでぼくのほっぺたをつんつんするので
しかたなくぼくはこの本を読むことにした。
つらつらと、ぼくの恥ずかしい文章が、
読むに絶えない稚拙な文章が
読んでいるうちにぼくは
だんだんとこころの、もやもやが晴れて来た気がした。
ぼくは自分のラブレターを読み終わった。
そして、なにげなく次のページを見ると
その返事が書かれていた。
全て読み終わって本を閉じた時に
目の前に君がいた。

ぼくは目の前にいる君に
ぼくの思いを話した。
その言葉は先ほどのラブレターより
素直な気持ちだった。

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