のんきな父さん


「う、生まれる!」

「なにが?」

「なにがって、子供よ、は、早く〜〜〜!」

「子供?だれの?」

「あなたのよ!それより、早く!」

「俺のなにを?」

「なんでもいいから!早くタクシー!あ〜〜〜」

「なんでもいいのにタクシー?」

「早くしないと生まれちゃうよ!」

「タクシー?呼ぶの?」

「何でもいいから早く!」

「なんでもいい?
 猫のタクシーでも?カエルのタクシーでも?犬のタクシーでも?」

「人間のよ!人間の!早く!もう、…」

「呼ぶの?」

「呼ぶのよ!」

「人間の?」

「そうよ!」

「電話で?」

「う、う、なんでもいい」

「じゃ、手紙書くね」

「手紙じゃダメ〜〜〜!あ〜〜〜〜」

「そういえば、子供じゃなくて赤ちゃんじゃない?」

「子供でもいいの!
 そ、そんなことより、う、う、生まれる〜〜!」

「え〜拝啓、なんでもいいタクシー様。ぼくの赤ちゃんが…」

「ダメ、手紙はダメ」

「いや、これ、伝書鳩に付けるから」

「もっと…ダメ!う、生まれる!」

「じゃ、今から鳩を買いに行ってくるね」

「鳩も手紙もダメなの!
 外行って手を挙げてタクシー捕まえてきて〜」

「はい先生!」

「なに?」

「手を挙げるってこんな風に?」

「そう、は、は、早く」

「あ、じゃ、ついでに鳩も…」

「鳩はいいの!」

「人間のタクシーあるかな?」

「猫のタクシーは無いから!早く」

「タクシーって車だよ。人間じゃないよ」

「人間が乗れる車のタクシーよ!早く!」

「猫も乗れるんじゃないかな?犬も?カエルも?」

「お金持ってないでしょ!あ〜〜!」

「あ、そうか!そんな気がしたんだ」

「早く!」

「どれくらい?」

「ちょー早くよ!」

「ちょーは無理かな?今忙しいから」

「なに、忙しいのよ!」

「え、子供が〜、いや、赤ちゃんが生まれるから」

「だから、早くタクシーを…」

「でも…慌てる乞食はもらいが少ないってママが…」

「もう、もらってるでしょ!」

「え、もらったの?」

「だから、子供が生まれるの!早く!もう…」

「なに、もらったんだろ?」

「嫁だよ嫁!
 あたしだよ!
 早くしろ!
 このばか!」

「ばか?…
 あ〜俺、思い当たるフシあるよ」

「いいから、はやく〜」

「ちょう?」

「もう、ふつうでいいから早く!」

「ハイ先生!ハイ先生!ハイ先生!」

「手を挙げる練習はもういいから早く!
 あ〜生まれる〜」

「ハイ先生!じゃ、日本一のタクシーを連れて参ります!」

「はやく〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

 

 

 

「ただいま〜タクシー つれてきたよ」

「だ〜れ?」

「あれ?」

「ママ〜」

「は〜い」

ガシャン

「あ、あなた?」

「タクシーを連れてきました。日本一の石田さんです。」

「あ、どうも」

「3年もどうしてたのよ!
 捜索願いだって出したし、
 ずーっと探していたのよ!」

「あ、おれもおれも 俺も探してた。
 石田さん」

「あ、どうも」

「パパ?」

「この人は石田さん」

「あ、どうも」

「パパはこっち。
 も〜う、あんたがぐずぐずしてたから生まれちゃったじゃない」

「パパ?」

「この人は石田さん」

「あ、どうも」

「もういいわ…
 そんなことより、早く上がって。
 せっかく親子が揃ったんですもの」

「あ、どうも」

「石田さんは上がんなくていいです!」

「あ、どうも」

「じゃ、またね石田さん」

「あ、どうも」

「だけど、やっぱりお前があってたんだね」

「なにを?」

「赤ちゃんじゃなくて子供だったんだね」

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