遭難

「おーい。おーい
 ちきしょう。
 だめだ!
 気づかねー!」

「あいつら、海の男のくせに、目が悪いんじゃねーか!」

「そうかもしれねーな。最近の若い奴らは…
 海の男は最低でも視力2以上無くちゃな!」

「いや、最低でも8は、ほしいですよ
 できれば、30くらい。」

「そんなにいいやつはいねーよ!」

「でも、今のぼくたちはプールの中の米粒みたいなもんだから」

「だいたい、視力30ってどこまで見れるんだ?」

「そうっすね。
 アフリカの人が遠い山の上で
 手を振ってるのが見えるのが
 8くらいってどっかのTVでやってたんで、
 都庁から東京タワーのみやげものやのおばちゃんが見える
 ってのはどうです?」

「しかも、ちょっと色っぽい、おばちゃんな。」

「って、そんじゃ足りねーよ。
 それじゃあ、俺たちは助からねーよ
 月の上のアポロが見えれば視力30ってのはどうかな?」

「いいですね〜。
 そこまでいったら、ぼくたちも助かりますね」

「でも、月の上から地球を見てる人はいませんよ」

「お前、それいっちゃ〜おしめーだろ!」

「じゃあ、のりたまのふりかけを袋の上から見ただけで、
 一番大きな黄色の玉子のやつを見つけられるてのは?」

「いいね〜、あれ微妙なんだよな。
 見つけた所で食感変わんねーしな」

「あと、黄色いお米を一瞬で見つける能力とかな」

「いいですね。あれ、炊くともっとわかんないから、
 炊いたお米で黄色い米を、
 即座に見つける能力ってのはどうですか?」

「それもいいね」

「でも、視力30ってのと違いません?」

「細かい奴だね〜。」

「でも、そうじゃないと、ぼくたち発見してもらえませんよ」

「まあ、そうだな。
 じゃあ、どんな小さなおフロのカビも見逃さないってのは」

「松居和代みたいなおばさんですか?」

「そう、あと、どんな綺麗な品物でも
 必ずアラを探して、いちゃもんつけて
 3割引にするおばちゃんとか」

「いますね。そんな人。
 新品の1万円札を
 よごれた1万2千円と
 取り替えそうなおばちゃんね」

「ひどいやつだね〜」

「他人の賞味期限にきびしく、自分の賞味期限に甘いのな」

「腐る前が一番うまいって言ってモノをくれる人ですかね?」

「しかも、お返しを銘柄指定で請求してくる人!」

「恐いですね。世間って」

「あの〜、視力が良くないと
 ぼくたち発見してもらえませんよ。」

「わかってるよ。
 だけど、それくらい野生のおばちゃんじゃないと
 勘が働かないだろ!」

「いますかね。そんな人、海上保安庁に」

「いるよ。どこにだっているんだもん。
 えーってびっくりするところにいるぜ。」

「たとえば?」

「同窓会にタッパーもってくるようになったら、
 その可能性有りだな
 あと、電車でどうしても空いてない隙間を
 すわるおばちゃんとか」

「あー、若い頃、座ってくれればいいのに
 どうして、おばちゃんになってから座るんでしょうね」

「それなんだよ。おれもつねづね不思議なんだ」

「あの、視力30は?」

「あ、そうそう、
 じゃ、あれだ。
 蚊の目玉が見れるってのはどうだ!」

「恐いっすね。蚊の目玉を認識できるのは?」

「しかも、飛んでる奴!
 あ、今見られたってな!」

「そんなおばちゃんなら、
 俺たちの遭難ボートも見つけてくれるだろう!」

「そうすね。さすが船長!」

「しかも、ちょっと肉付きのいい色っぽいバツイチ!」

「さすが船長!じゃ、服装は海女さんにしましょう!」

「さすが海の男!」

「ぼくは、若い子のほうが…」

「贅沢いうんじゃね〜こんな時に!
 生きるか、死ぬかって時に
 
 若いのって言ったら
 海の女神に見放されちまあ〜
 海の事は俺たちにまかしときな!」

「あ、はい」

「早く、来ないかな?
 飛んでる蚊にメンチ切る
 ちょっと肉付きのいい色っぽいバツイチで
 海上保安庁のおばさん。
 で、服装は海女さん!」

「来るといいな〜」

「来ますかね〜」

「来るさ、きっと…」

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