耐震偽装、5秒前

「あなた、ここに私たちの城が建つのね」

「ああ、これでおれも一国一城の主だな」

「あなた?」

「城は建ちませんよ!
 ただの狭い家ですよ
 たいした予算もないんだから」

「しっけいな!わかってるよ!」

「いや、良かった。
 私もまさか本当に城でも建つと
 思われているのかと思って…
 安心しました。」

「大丈夫だよ。それより予算、
 本当にあれだけで建ててくれるんだろうね!」

「あ、その辺は大丈夫です。
 姉歯も一生懸命やると申してました」

「あねは?あ、あの姉歯かね?」

「はい、たぶん、その姉歯です。
 再起をかけてしっかりやると申しておりました」

「ちょ、ちょっと待て!」

「はあ?」

「本当に大丈夫なの?」

「ええ、姉歯も、もう見つかるようなヘマはしないと申していました」

「それは、見つからないようにやるってことじゃ?」

「ええ、その辺は抜かり無く」

「いや、そういってるんじゃなくて
 しっかり、やってもらいたいんだが…」

「ええ、姉歯ももう
 しっかりと隠しとおすと申しておりました」

「懲りない奴だね」

「ええ、もう、これから、口などは割らずに
 もっと巧妙に2重3重に」

「手を抜くと?」

「はい、
 そのように申しておりました
 だから、以前なら市価の半額で提供したのを
 更に半額の4分の1で、
 はいお安くなりました。」

「ちょっとまて!
 ぼくが頼んだのはそういう事じゃなく」

「いや〜、あのお値段で
 まともに家が建つと考えているとは
 こちらは思いもよりませんよ」

「よりませんよって困るよ
 地震が来たらどうなるんだ」

「まあ、5以上なら間違いなく はい
 でも、保険に入っておけば安心ですよ」

「だろうね。
 でもその前に家がつぶれて命があるかな?」

「一応、生命保険のほうも
 かけておいた方が良いですよ」

「そんな家に住めるか!」

「あ、大丈夫です
 住む住まないは自由ですから」

「いや、そうじゃなくて」

「なにか不満でも?
 偽装と欠陥以外に?」

「そこが重要なんだよ!」

「まあ、原住民の住居よりは
 はるかに文化的
 構造もしっかりしておりますが」

「どこの原住民だよ!」

「それは、今は申し上げられません
 建てるときのお楽しみってことで」

「その、お楽しみっていったい?」

「あ、その原住民が建てるもんで
 あ、奥様には内緒ですよ!
 サプライズなもんで」

「いや、この時点でも
 十分にサプライズだよ」

「あくまでも、まともな家は建てないつもりか?」

「いや、建てないではなく
 建たないですから、
 その辺はお間違え無く!」

「もういい、君の所には頼まん!」

「あら〜出ちゃった。天下の宝刀!」

「あんた、原住民の家族のことを考えた事があるのか!」

「ないよ!そんなものが絡んでいるとは
 初めて知ったんだから」

「そんな事より、これは国際問題になりますよ
 あなた、国連に顔が利くんでしょうね」

「効かないよ!そんなもん」

「あなたはいいかもしれないが
 そのおかげで1万人の世界中の子供たちの予防接種がなくなるんですよ!」

「なんだ、俺のお金はそんな事に使われるのか?」

「いえ、たいていは私の交遊費に使われます。
 一部は、姉歯の保釈金に…はい」

「はい!ってなにが1万人のこどもたちだよ!」

「まあ、そんな事はどうでもいいじゃないですか?」

「よかあないよ」

「よかあないって、
 じゃあ、私が子供たちの予防接種をやって、
 お宅の、家をもっと偽装すればいいんですね!」

「そんなことはいってないだろ!」

「そうですよね!
 世界中の子供たちの命より自分の家ですよね」

「それもいってない!
 どっちも大事だろ?」

「おや、あなたおかしいですね
 命よりも大事なお金をケチっておいて
 さらに世界中の子供たちの命と自分の家が大事だなんて」

「おま!さっき、交遊費だって言ってじゃないか!」

「それとこれとは関係ないだろ!」

「ないわけないだろ!」

「わかった、もういい!
 じゃ、あんた!原住民使って好きなように建てればいいだろ!」

「なんだ!その態度は!」

「姉歯だってあんたの家建てたくないよ!」

「頼んでねーよ!」

「ああ、せっかくシール張れるのに!」

「シール?」

「家一軒建てるごとに今、スタンプカードにシールを貼ってもらえるんだよ
なんと10枚貯まると、白いおしゃれお皿が当たるんだよ!」

「家10件建てて白いお皿かよ!」

「うるさい!
 これだって欲しいってお客さんは
 たくさんいるんだからな!」

「もういい!」

「はい、
 じゃあ、今のままでいいんですね!
 ありがとうございます。
 では失礼します」

「???…」

▼Back

presented by kuwajima