サンタ

「彼女を好きだったのはいつ頃だっただろう」
屋根の上に座ったサンタは考えた。
その彼女の娘のプレゼントを毎年運んでいた。
「今年が最後だろう」
明るくなりかけた風景を眺めながら考え深げに立ち上がった。
彼女の子供ももう15歳、サンタが好きだった彼女に良く似て来た。
そろそろ、彼女も卒業の頃だ。
本当の恋が彼女にも待っている。
プレゼントは彼からもらう時期が来ている。
早い子なら、8歳でサンタからはなれていってしまう子もいるというのに
よく、もったと思う。
「さて」と立ち上がり
今年最後のプレゼントをとどけに
煙突の中を入っていった。

プレゼントを枕元に置いた時に
もう、逢えない、いや正確には、
この子が大人になり、子供が出来るまでは
逢えない事を知っているサンタは
すこしだけ、いつもより、その眠りこけたあどけない顔を眺めて
今年の仕事を終えた。

サンタは全てを知っている。
彼女は、今年好きだった男の子と付き合いを始める。
すこしばかり、喧嘩したりしながらも7年後結婚する。
そして、その2年後にかわいい女の子が生まれる。
サンタが好きだった彼女の孫になるわけだ。

サンタが好きだった彼女もこの恋は実らないのは知っていた。
それどころか、彼女が誰と結婚し、子供を産み、いつ死ぬのかさえ知っている。

恋をしたサンタは、大人になった彼女には逢えない。
だけど、サンタは全てを知っている。
全てがわかって今日もプレゼントを運ぶ。
それがサンタだ。

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